人工うなぎ諸語

JOL2018第5問 キリル文字・モンゴル文字・チベット文字の解説

 

ブログ始めました。最初は2018年の言語学オリンピック日本予選(iolingjapan2018.pdf - Google ドライブ)から第5問のキリル文字モンゴル文字チベット文字の問題の解説です。

ミスや分かりづらいところがあったら指摘してもらえると嬉しいです。

 

公式サイトの大会成績によると平均点は20点満点の12.39点だそう。

 

前提知識

  • ある文字で区別されているものが他でも区別されているとは限らない
  • 子音と母音を独立して書くローマ字のような文字体系のほかにも、子音だけを記したり、子音に記号をつけて母音を表したりするものなどがある
  • 語の始め、中、終わりで字形が変わる文字もある

などを知っていることが望ましいです。

キリル文字などの知識が有れば役に立ちますが、必ずしも必要ではないためここでは個別の文字の知識はないということにして解き進めます。

 

解説

方針

この問題の目標は、選択肢を絞れるようにキリル文字モンゴル文字キリル文字チベット文字それぞれの対応関係を明らかにすることです。

  • 確実なデータから対応を特定する
  • 対応させられたら色を塗る

でやっていきます。色ペンは本番でも使えますし他の問題でも役立つので大量に持っていきましょう。

ふつう文字の問題では書き進める方向を考えなければなりませんが、今回は事前知識が無ければ右も左も分からないのでとりあえず左から右、上から下だと仮定しておいて行き詰まったら仮説を立て直すことにしましょう。


ここでは便宜上各選択肢をこう呼ぶことにします。

f:id:karngati:20191202153907j:image

 

 
モンゴル文字

まずはモンゴル文字から始めます。一目で縦書きらしいのが分かります。とりあえず一番目立っている金曜日の一番上の文字を青で示します。上の仮定に従うとキリル文字のбに対応しそうなのでこれも青で塗りました。少し怪しいですが3番もマークしておきます。

f:id:karngati:20191202142529j:image

文字は一対一で対応しているとは限らないため数が合わなくてもひとまず問題ありません。1番の選択肢は土曜日に入りそうです。

土曜日のモンゴル文字が分かったのでこれをよく見てみると、2個目の青の上にある文字(赤色)が日曜日にも含まれていることが分かります。位置関係からキリル文字のмに対応していると予想します。

f:id:karngati:20191202142602j:image

少し形が違いますが、4番にはこれが二つ出てきています。恐らく語頭なので形が変わっているのでしょう。мを二つ含む火曜日に入りそうです。


日曜日と土曜日にはяも共通して出てきているのでこれも対応させられそうです。黄緑で塗りました。

f:id:karngati:20191202142635j:image

繰り返しますが、一対一で対応しているとは限らないので多少の誤差は仕方ありません。


ここで、残っている2番3番5番と月水木にそれぞれ青のモンゴル文字キリル文字のвが一度ずつ出てきていることに注目します。青いモンゴル文字はбとвの両方に対応しているようです。単語内の位置もちょうどいいですね。


残りヒントになりそうなキリル文字はа、р、гあたりですが、аは沢山あっても対応するモンゴル文字が未だよくわからず、рは選択肢のモンゴル文字のなかに4番の一番下の文字に似た文字が見つかりません。語中、語尾で形が変わっているのかもしれません。

гなら2番と4番に黄色で示したものが共通していますね。2番を水曜日に入れます。

f:id:karngati:20191202142742j:image


残り選択肢は二つですが、ここから絞るのは少し難しいと思います。3番だけ青の字形が違うのは語末に来ているからだと推測したり、5番の方が青の位置が真ん中寄りにあることを根拠にしたりすると3番を木曜日、5番を月曜日にできます。

f:id:karngati:20191202143115j:image

完成!

 

チベット文字

火曜日に二つ含まれている文字(赤色)がмっぽいですね。Bにも似ているのがあるので取り敢えず赤で塗っておきます。Bに二つある文字(青)がбで、これが土曜日だと予想できます。Cの方が語形が短そうですしм(赤色)も後ろのほうにあるのでCは日曜日、Bは土曜日に入れます。

f:id:karngati:20191202143127j:image

青とбの数が合っていませんが、これもまた一対一対応ではないからでしょう。説明が大変になってきたのでここで2回以上出てきているチベット文字に色を塗ります。

f:id:karngati:20191202143215j:image

たくさん塗れました。


色々攻め方がありそうですが、ここでは火曜日のデータから黒色がрだと仮定し、同じ黒を含むEを水曜日にとします。すると紫色はвに当たりそうです。

f:id:karngati:20191202143234j:image

ここで、チベット文字の青と紫はキリル文字のбかвのどちらかに対応していると予想できます。先ほどのモンゴル文字でбもвが区別されていなかったことを考えると自然です。

そう仮定をおくと、初めに青があるDが金曜日、後ろの方にあるAが水曜日だと分かります。黄緑がгに対応しそうなのも根拠になります。

f:id:karngati:20191202143253j:image

完成!

まとめ

いかがでしたか?

この解説では途中で立てた仮説が全て正解でしたが、そんなふうに解き進められることは滅多にないので立てたり立て直したりしながら進めます。

 

おまけ

今回の問題はキリル文字モンゴル文字で書かれたモンゴル語とその語源となるチベット語の対応でした。

この記事では個別の文字の知識がないことを前提に解説をしましたが、キリル文字を少し知っているとбとв(ラテン文字で言うとbとv)が同じ字になったり、母音であるaがチベット文字で書かれていなかったりするのに納得できたりして有利になるかもしれません。

モンゴル語チベット語の語形が違うのは容易に想像のつくところですが、キリル文字モンゴル語は口語、モンゴル文字は文語で書かれているらしく、どれも微妙に違う語形になっているそうです。

問題中の3番のвに対応する文字の形が違うのは語末だからではなく、文語では後に違う母音が付いているからだそうです。こんなのやってられるか。

追記 モンゴル文字の月曜日の字が間違っているらしいと言う情報を得ました(вは本来これではないらしい)(参考:http://chinabuddhismencyclopedia.com/en/index.php/Days_of_the_Week_in_Mongolian_%2526_Buryat:_Planetary_and_Numbered_Names